カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先など、業務に関わる相手からの言動によって、労働者の就業環境が害されることをいいます。厚生労働省が公表した指針(令和8年厚生労働省告示第51号)では、次の3つの要素をすべて満たすものをカスハラと定義しています。
- 顧客等からの言動であること
- 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
- その結果として、労働者の就業環境が害されること
正当な苦情や要望など、社会通念上許容される範囲内の申し入れは、カスハラには該当しません。また、対面でのやり取りに限らず、電話やSNSなどを通じた言動も対象になります。
「顧客等」の範囲
指針における「顧客等」は、実際に商品を購入した人やサービスを利用した人に限られません。次のような人・立場も含まれます。
- 商品の購入者、サービスの利用者
- 取引先の担当者
- 施設の利用者やその家族
- 施設周辺の住民など
- 今後、取引や利用の可能性がある人
すでに取引・利用している相手だけでなく、これから関わる可能性がある相手からの言動も対象になる点に注意が必要です。
問題となる言動の例
指針では、社会通念上許容されない言動を、大きく2つの観点から整理しています。
①要求の内容そのものが不当なもの
- 理由のない要求
- 業務内容と関係のない要求
- 契約内容を著しく超えるサービスの要求
- 対応が著しく困難、または不可能な要求
- 不当な損害賠償の請求
②要求の手段・態様が不当なもの
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・侮辱・暴言など)
- 土下座の強要
- 威圧的な言動
- 執拗な言動(同じ内容を繰り返し要求するなど)
- 長時間の拘束(居座り、電話を切らせないなど)
これらはあくまで典型例であり、実際に該当するかどうかは、個別の事情を踏まえて総合的に判断されます。なお、障害のある方からの合理的配慮を求める申し出や、差別的な取扱いの是正を求める行為は、カスハラには該当しません。
事業主(使用者)に義務付けられる対応
改正された労働施策総合推進法とその指針により、事業主には、カスタマーハラスメントから労働者を守るための体制整備が義務付けられます。主な内容は次のとおりです。
| 措置の内容 | 具体例 |
|---|---|
| 方針の明確化・周知 | カスハラには毅然と対応し、労働者を守るという方針を定め、従業員に周知する。具体的な対応方法(報告体制、一人で対応させない体制、録音・録画の活用、退店要求や通報の基準など)もあらかじめ定めておく。 |
| 相談体制の整備 | 相談窓口を設置し、周知する。既存のハラスメント相談窓口と統合することも可能。実際の被害だけでなく、発生のおそれがある段階でも相談できるようにする。 |
| 事後の迅速・適切な対応 | 事実関係の迅速な確認、被害を受けた労働者への配慮(担当変更等)、再発防止策の実施。犯罪行為に該当し得る場合は、警察への通報も想定される。 |
| 抑止のための措置 | 特に悪質なケースに備え、対応方針をあらかじめ定めておく(警告文の送付、サービス提供の拒否、出入り禁止、法的手続きの検討など)。 |
| プライバシー保護・不利益取扱いの禁止 | 相談した労働者のプライバシーを保護し、相談したことを理由に不利益な取扱いをしないことを、就業規則等で明確化する。 |
また、自社の従業員が他社に対してカスハラを行った場合、相手企業から事実確認等の協力を求められたときは、これに協力するよう努めることとされています。
現場での対応のポイント
制度を整えるだけでなく、実際に現場でカスハラが起きた際、従業員が孤立せずに対応できる仕組みを作ることが重要です。次のような点があらかじめ決まっていると、現場の判断がしやすくなります。
- 一人で対応させず、複数人で、または上司に引き継ぐ基準
- やり取りを録音・録画してよい場面の基準
- 対応を打ち切ってよい(退店を求める、電話を切るなど)基準
- 警察への通報や、本部・顧問弁護士への報告を行う基準
基準があいまいなままだと、現場の従業員が「ここまで我慢すべきか」を自分で判断せざるを得ず、負担が大きくなります。基準を明文化し、研修等を通じて周知しておくことが望まれます。
施行時期と企業が準備すべきこと
カスタマーハラスメント対策の義務化は、2026年(令和8年)10月1日に施行されます。労働者を1人でも雇用する事業主であれば、業種を問わず対象になります。
施行に向けて、企業には主に次のような準備が求められます。
- 就業規則・社内規程への規定の追加
- 相談窓口の設置
- 対応マニュアルの整備
- 管理職・従業員への研修の実施
特に、顧客対応の機会が多い業種では、現場で即座に判断できる具体的な対応手順をあらかじめ整えておくことが重要です。就業規則の見直しやマニュアルの整備でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)